新生児蘇生法事務局
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NCPRの歩みと今後の展開
和田 雅樹
日本周産期・新生児医学会 新生児蘇生法普及事業小委員会 委員長
新潟大学大学院医歯学総合研究科 小児科学教室
日本周産期・新生児医学会の新生児蘇生法(NCPR)普及事業による公認講習会(NCPR講習会)が2007年7月より開催されるようになり、2010年9月までの受講者は各コースを合わせると2万名を超えるまでになりました。制度発足前の計算では、インストラクターが増加し順調に講習会が開催されるようになった場合、事業開始から5年間で最大4万人程度の方が受講すると予測されていました。現在はそのペースに迫る勢いで受講者が増えていることになります。講義とシナリオ実習を含めた実技、テストからなるNCPR講習会は、我が国の周産期医療に確実に浸透してきているといえます。
本稿ではこれまでの本事業を振り返るとともに、それを踏まえて、今後のNCPR講習会の展開について述べてみたいと思います。
1.これまでのNCPR講習会の体制
NCPR講習会には、二次、三次周産期医療機関の医師や新生児蘇生に携わる専門性の高い看護師、助産師を対象とした「専門(A)」コースと、一次医療機関の医師や一般の看護師、助産師、医学部学生、看護および助産学生、救命救急士を対象とした「一般(B)」コースがあります。講習時間はそれぞれ5時間と3時間を標準とし、試験による評価によって一定の基準に達したと判定された場合に、事務手続きを経て認定証が発行されます。
Aコース、Bコースは現在、全国各地で様々な開催母体によって開催され、両コースを合わせると月に30回〜70回の開催頻度となっています。
一方、Aコースインストラクター養成講習会(Iコース)はAコースインストラクター養成を目的に学会が主催しています。現在は新生児関連学会の学術集会時と関連学会からの要請、それに東京サイト(母子愛育会愛育病院)と大阪サイト(大阪大学病院)での定期開催を合わせ、年に8〜10回前後開催されています。
現在、Iコースの受講者は、周産期専門医制度の暫定指導医を中心として、周産期医療に一定の実績がある方を主な対象者とし、Iコースを受講することでAコースの受講も兼ねるものとなっていました。そして、Iコースの試験に合格し(筆記試験と実技実習での評価があります)、認定手続きを行った後には、Aコース、Bコースとも開催することができます。
また、Aコース認定者は、AまたはBコースでインストラクター補助を務め、一定のレベルに達していると判定され、推薦された場合、Bコースインストラクター(通称、J)として、Bコースを開催することができます。
Aコース、Bコースとも、認定期間は5年間です。更新には5年毎に行われる ILCORのConsensus (CoSTR)および我が国の新生児蘇生法ガイドラインの更新内容を含むアップデート講習会を受講し,更新のための試験に合格する必要があります。また、I、Jともインストラクターの資格更新は、Aコースの更新とともに、5年間に2回以上のインストラクターとしての指導実績が必要になります。
2.CoSTR2010、ガイドライン2010に則ったNCPR講習会の体制
CoSTR2010、ガイドライン2010が出されましたが、NCPR講習会の体制は基本的には変わりません。これまでと同様にA、Bコースからなり、Iコース認定者はそれぞれの講習会の、J認定者はBコース講習会のインストラクターを務めることができます。大きく変わるのはその内容で、アルゴリズムを含めた蘇生法とその教育方法が変更されます。
(1)CoSTR2010、ガイドライン2010に則った各講習会の開催
CoSTR2010、ガイドライン2010の内容を踏まえ、その考え方に則ったNCPRのテキストを現在、製作中です。今年度中には新たなテキストが販売される予定です。
今後の講習会の開催に関するスケジュールとしては、まず現在のインストラクターの方にCoSTR2010、ガイドライン2010に則ったNCPR2010講習会(仮称)の指導法に関する知識の更新を行っていただきます。(バージョンアップ)テキストをはじめ、インストラクターマニュアル、講義用スライド、テスト問題などの改訂準備を現在進めているところです。今後開催されるIコース講習会は基本的にNCPR 2010(仮称)の内容になりますので、地域で中心となるインストラクターの方にはそれに優先的に参加していただけるように配慮いたします。
詳細な日時は未定ですが、来年度にはAコース、BコースともNCPR2010講習会(仮称)に完全に移行する予定です。 当初は混乱も予想されるため、ガイドライン改訂に関わったメンバーが各地の講習会に出張し、NCPR2010講習会(仮称)の開催をお手伝いすることも検討していきます。
ただ、新たな講習会への移行が行われない間にも赤ちゃんは次々と生まれています。したがって、移行までの期間は旧版のNCPR講習会も正式なものとして認定させていただきます。しかし、旧版で認定を受けられた方は、なるべく早い機会に新しいテキストで自習していただくか、新たに始まるe-ラーニングによるアップデート講習会(後述)を受講することをお勧めします。
(2)CoSTR2010、ガイドライン2010の内容に関するアップデート講習会
これまでにNCPRの認定を受けている方が、CoSTR2010、ガイドライン2010に則った新たな蘇生法を学んでいただくために、現在、アップデート講習会を準備しています。インストラクターによるアップデート講習会の他に、多くの方が無理なく、比較的早く受講でき、さらに今後予定される資格更新において、その講習受講実績が反映されるように、インターネットを利用したe-ラーニングシステムの導入を検討中です。e-ラーニングでは受講生は自分の好きな時間に自習することができます。そして、一段階ずつステップアップしていくことで、内容の理解度について確認していくことができます。e-ラーニングシステムによるアップデート講習の修了も資格更新として認める案も検討されています。
(3)コースの改正
NCPR講習会の水準を一定以上に保つために、現在、Iコースの制度改正が検討されています。現在のIコースの受講資格は前述のように周産期医療に一定の実績がある方を対象とし、それを踏まえた講習会の内容となっていました。これは制度発足時の暫定的なものとも言えます。
今後は一定の知識・技術レベルを習得した上で、さらにインストラクターとして講習会を開催するための知識・技術を習得することを目的としたIコース講習会に改変していく予定です。
具体的にはAコースの認定をIコース受講条件の一つとし、その上位講習会としてIコースを位置づけることが考えられています。新たなIコースでは制度や講習会の開催に関する知識と、具体的な実技実習の教え方を身につけていただきます。Iコース受講生にシナリオ実習のインストラクター役をやっていただき、その教え方に関して、受講生が相互に評価するというような内容も盛り込まれる予定です。ブリーフィングやデブリーフィングといった新たな教育方法の概念も導入が検討されています。
来年春以降には、新たなプログラムとなったIコースを開催していきます。
3.トレーニングサイトの増設
現在、東京(母子愛育会愛育病院)と大阪(大阪大学病院)の2か所のみであったトレーニングサイトを今年度中に増設していく予定です。実際には全国を6〜7のブロックに分け、ブロック毎にトレーニングサイトを設置し、そのサイトでIコースを開催します。
トレーニングサイトの増設を踏まえ、これまでの暫定的なコアインストラクターに代わって、Iコースでインストラクターを務めることのできる新たな資格も検討されています。
なお、トレーニングサイトはそのブロックのNCPRの中心的な施設となるため、ブロック内のNCPR講習会の開催に協力したり、スキルアップのための活動を行ったりすることも期待されます。
4.ホームページの充実
現在、日本周産期・新生児医学会のホームページにリンクして、NCPR普及事業のホームページが開設されています。NCPRに関する情報の発信は主にそのホームページから行われていますが、今後、そのホームページもバージョンアップしていきます。講習会の開催情報を随時更新し、近隣地域で講習会受講の機会が得やすいようにしていきます。
また、講習会の開催申請や実施報告はメールでのやり取りを行う必要がありましたが、ホームページからより簡便に事務手続きが行えるようにしていきたいと考えています。さらに今後予定されている前述の制度改訂にも対応できるように新たな内容に変更していきます。
以上、今後のNCPR普及事業の今後の改変、改訂について概略を述べてみました。CoSTR2010を受けて、NCPR講習会も新たな段階へと変化する時期を迎えています。上に述べたe-ラーニング、Iコース改正、トレーニングサイト増設に関しては、現在、急ピッチでその準備が進められています。より具体的な内容はNCPR普及事業のホームページやニュースレターを通じて、皆様にお知らせしていきます。