静岡済生会総合病院
杉浦 崇浩
静岡済生会総合病院 新生児科(小児科)
静岡済生会総合病院(以下当院)は医療人口圏約70万人の静岡県静岡市の地域周産期センターで主に中等症から軽症の新生児の診療にあたっており、2008年8月より主に一次・二次施設を対象として新生児蘇生法普及事業事務局を開催しています。
当院の講習会の特徴はできるだけ実践的な講習会を目指して、インストラクターが受講者の所属施設に出張し、普段勤務する場所、普段使用する器具を可能な限り使用する「出張」講習会を積極的に開催していることです。これまで静岡中部地区を中心に総合周産期センター1か所、総合病院3か所、開業産科診療所7か所、助産院1か所の合計12か所の施設で、合計32回の「出張」講習会を開催しています。
今回はこの「出張」講習会について少しご紹介したいと思います。
「出張」講習会のメリット
当院の「出張」講習会では当院所属のインストラクターが必要最低限の講習会物品を携帯した上で、受講者の所属施設に出張し、受講者が普段勤務する場所、普段使用する器具を可能な限り使用するようにしています。
受講者にとってのメリットは、受講者が普段使用し慣れている環境、機器を使用するために各実技手技を身につけやすく、また比較的リラックスでき緊張も少なく、また同じ職場の同僚と手技・知識の習得を一緒に体験でき、蘇生チームとしてのモチベーションを上げやすいことです。これらのことから受講者から本当に実践的な講習会だったとの評価を多くいただいています。さらに近くて参加しやすい、時間的に助かるなどといった声も聞かれます。
一次周産期医療施設では所属施設の医師・スタッフ数も少なく、所属施設から出向き、他会場での講習会に参加する機会も少ないことが予想され、こういった点からも「出張」講習会の開催は受講機会を増加させるのにも一役かっているものと思われます。
また地域連携を含めた開催者側のメリットも幾つか挙げられます。まずは各施設の実際の蘇生環境、器具、即ち蘇生の現場を点検させていただけることです。実際に不備があった場合その施設の受講者と一緒にそれを確認し、その場で考え、工夫し、改善することができます。
次に一般的に講習会などで獲得した蘇生手技は受講後の時間経過と共に低迷していくことが知られており、獲得技術がどの程度維持できているかの評価・確認や復習機会が必要と思われます。当院の「出張」講習会では多くの施設に対し数カ月〜1年に1回の頻度で繰り返し講習会を開催していることから、各施設でどの程度蘇生法の維持が出来ているか確認することができます。
さらに前回受講していただいた受講者の中からインストラクター補助者を募りその所属施設での講習会にインストラクター補助として参加していただき、その方を中心にその施設での蘇生法の維持を後押しすることも可能です。
実際に各施設を訪問することでより「顔」と「顔」が見えるスムースな地域連携にも寄与していることを実感しています。
定期的・継続的な「出張」講習会開催のコツ
定期的、継続的な「出張」講習会の開催を目指していくつか心掛けていることがあります。まずはできるだけ受講希望施設側と開催側、両者の負担軽減です。
休日の講習会開催は、お互いに少ない休みがさらに減ってしまうことになります。そこで当院では病院業務として原則平日の午後に講習会を開催しています。加えて近隣の開業産科診療所で「出張」講習会を開催する際には、まずその診療所の午後休診の曜日に開催するように調整しています。こうすることによってお互いの貴重な週末を利用することなく講習会を開催・受講することができます。
次に講習会を開催するには講習会開催の周知、参加希望者との連絡、調整等々の作業が必要です。また事前申請書・実施報告書の作成、提出等々の事務処理も必要です。これらの煩雑な事務的作業はただでさえ大変な講習会の開催をさらに困難なものにしかねません。
当院では病院業務として講習会を開催していますので、この「出張」講習会に関してのご質問や、開催依頼を含めた講習会の周知や参加者募集等は病院のホームページ(http://www.siz.saiseikai.or.jp/hosp/guidance/pediatrics.html)を窓口に医療秘書さんが担ってくれています。もちろん提出書類も医療秘書さんが対応しています。このおけがでインストラクターは講習会当日のみに集中することができます。
やはり定期的・継続的に講習会を開催するには病院を味方につける事は重要なことと感じています。
このように「出張」講習会の開催は一見大変そうに思われますが、それを上回る恩恵を受講者、開催者の両者が受けることのできる開催方法ではないかと思います。皆様のご施設、地域でも是非この「出張」講習会を開催してみてはいかがでしょうか?